大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和61年(ラ)223号 決定 1986年7月02日

抗告人

財宝建設株式会社

右代表者代表取締役

長谷山勝美

右代理人弁護士

白木弘夫

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一抗告人は、「原決定を取り消す。抗告人に対する別紙物件目録記載の不動産(以下「本件建物」という。)の不動産引渡命令の申立てを却下する。」との裁判を求め、その理由として別紙「執行抗告理由書」記載のとおり主張する。

二よつて検討するに、一件記録によれば、抗告人は、建築工事請負、不動産の売買、仲介等の業を営む目的で、昭和四九年五月三〇日設立登記を了した資本金五〇〇万円の株式会社であるところ、昭和五八年七月二七日に長谷山勝美(本件建物及びこれに隣接するマンション居室である二〇一号室区分所有建物の元所有者であり、且つ基本事件たる東京地方裁判所昭和五九年(ケ)第一六〇四号土地建物競売事件の債務者でもある。)が抗告人の代表取締役に、また右勝美の実父長谷山五郎と土屋喜久、小林幸治との三名が抗告人の取締役に各重任された旨の登記を了したが、昭和五八年一一月一六日に右土屋の取締役辞任登記を経由した後は、右重任の日から二年以上経過しているにもかかわらず、昭和六一年一月二九日までの間、抗告人の役員に関する事項については何らの登記もなされなかつたこと、右勝美は、昭和五四年七月一三日、本件建物とその隣室の二〇一号室の所有権を取得し、同年八月二七日、抗告人の本店を本件建物に移し、事実上、本件建物を抗告人の事務所として利用しつつ不動産関係の仕事をしていたが、その後昭和五七年一月ころ、抗告人の事務所を本件建物から国鉄赤羽線板橋駅近くの別の場所に移転し、本件建物と右隣室二〇一号室とを一体として、右勝美及びその妻子ら家族のための居宅として利用するに至つたこと、しかるに右勝美は、その後事業に失敗し、昭和五九年四月ころ、再び本件建物を事実上抗告人の事務所として使用するようになつたこと、しかして、抗告人が本件抗告で主張する抗告人と右勝美との間の本件建物の賃貸借契約締結は、会社と取締役間の取引であるにもかかわらず、これにつき抗告人会社の取締役会の承認を受けたことを証する資料は何ら存しないこと、以上のような事実を認めることができる。

右認定の抗告人会社の規模、取締役会の構成とその非活動状況、代表者たる勝美の個人財産を抗告人の営業のために事実上流用した経緯からみれば、抗告人は、株式会社とはいうものの、その実質は右勝美の個人企業であつて、抗告人の法人格は形骸にすぎず、とりわけ、本件建物の占有関係についてみる限り、右勝美を競売物件の所有者兼債務者とする基本事件の土地建物競売事件における不動産引渡命令申立て事件において、抗告人を右勝美と同視するのが相当であり、抗告人に対し本件建物の引渡を命ずることは許容されるものというべきであつて、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官伊藤滋夫 裁判官鈴木經夫 裁判官山崎宏征)

物件目録

一棟の建物の表示

所在 東京都北区滝野川七丁目五番地七

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根六階建

床面積

一階 七八・九三平方メートル

二階ないし五階 各七九・〇八平方メートル

六階 七八・七九平方メートル

専用部分の建物の表示

家屋番号 滝野川七丁目五番七の五

建物の番号 第二〇一号

建物の種類 居宅(現況 事務所)

構造 鉄筋コンクリート造一階建

床面積 二階部分 三一・八三平方メートル

執行抗告理由書

(登記上の本店所在地)

東京都北区滝野川六丁目八四番八号

(現住所)

東京都東久留米市金山町一丁目一三番二号

抗告人 財宝建設株式会社

代表者代表取締役 長谷山 勝 美

東京都中央区銀座三丁目五番一七号山岡ビル三階

上記代理人弁護士 白 木 弘 夫

昭和六一年三月二五日付執行抗告(東京地方裁判所昭和六一年(ソラ)第三〇号・基本事件昭和五九年(ケ)第一六〇四号)について、執行抗告の理由は下記のとおりである。

一、本件引渡命令は、後述の如く事実関係を誤認し、強いては民事執行法第八三条一項に違反して発せられたものである。

即ち同条項によると引渡命令が認められるためには、「差押えの効力発生前から権限により占有している者でないと認められる不動産の占有者」と規定されている。

逆に云えば「差押えの効力発生前から権限により占有している」抗告人に対しては、元来引渡命令と云う簡易な手続は認められない筈である。本件引渡命令は明らかに同条項に違反している。

以下具体的事実関係を詳述する。

二、抗告人会社は不動産の売買、仲介等を業とする者であるが、昭和五四年八月二五日、本件不動産の元所有者長谷山勝美との間でおおよそ次のとおりの内容で賃貸借契約を締結した。

(1) 賃貸借期間 昭和五四年八月二七日から三年間(但し更新はできるものとする)

(2) 敷金 金一二〇、〇〇〇円也

(3) 家賃 一ケ月金四〇、〇〇〇円也

(4) 家賃の支払時期 毎月末日に支払うこと

(5) 用途 事務所

三、抗告人会社は前記賃貸借契約に基づき、昭和五四年八月二七日以降本件不動産を事務所に使用、占有して今日に至つている。その間昭和五七年八月二七日、昭和六〇年八月二七日と二回前記同旨の契約内容で更新してきたのである。

尚途中昭和五九年四月三〇日から三年間元所有者長谷山勝美と第三者の谷繁勝彦間で抗告人会社と共同使用することを内容とする賃貸借契約を締結した。従つて前記日時以降現在に至るまでの間、本件不動産は、抗告人会社と前記谷繁勝彦が共同で使用、占有しているのである。

四、抗告人会社の代表者は、確かに本件不動産の元所有者である長谷山勝美であるが、あくまで法人格を異にする独自の占有者である。しかも本件差押えは昭和五九年八月二三日であるが、それより遙かに早い昭和五四年八月二七日以降継続して今日に至るまで、有償使用してきているのであるから抗告人の占有は、本件差押以前からの正当な権限にもとづく占有と云えるので、いずれにしても本件引渡命令は違法である。

五、尚執行官の現況調査は、如何なる方法でどの程度の調査をされたのか知らないが、以上述べてきたことが適確に調査されたとは思えない。

六、よつて抗告の趣旨記載の裁判を求める。

添付書類

一、覚え書(写)一通

二、事務所共同使用覚書(写)一通

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例